2013-04-08
「漠然と存在する宇宙」と、それを感じ取ってきた古代日本人
日本の神話「古事記」の始まりはこうである。
「天地の始めの時、高天原になりませる神の御名は、天の御中主の神」
「生長の家」創始者であられる谷口雅春先生は、この一文をこう解釈しておられる。
「宇宙(現象世界)のはじまる前の創造神・天の御中主の神は、高天原(実相世界:天界)に偏在し、神の意識を天界に鳴り響かせていたである」
さらに、解釈は次のように進む。
「そして、神の響きの中から宇宙が生まれ、現象世界(物質より成る世界)が成立したのである※1」
この一文を著者が初めて読んだとき、真っ先に思い浮かんだのが、佐藤勝彦先生(東京大学名誉教授)が提唱された宇宙のインフレーション理論であった。
インフレーション理論では、宇宙の誕生について、真空の揺らぎ(波動の位相・周波数に微妙に生じる差)に触発されて宇宙が生まれ、生まれてから10のマイナス44秒後の急激な膨張(インフレーション)、さらに、10のマイナス34秒後のビッグバンを経て現在の姿に成長した、と、考えられている*2。
まさに、神の響き(真空の揺らぎ)の中で今の世界(宇宙)が生じたという、神話の世界と最新の物理学の世界の融合をみた思いがし、宇宙の開闢(かいびゃく)を悟っていた古代日本民族の直観力に、筆舌に尽くしがたい衝撃を受けたのを憶えている。
天地創造(宇宙の誕生)を、そのように捉えてきた古代日本人だが、そんな彼らをとりまく神々は、それぞれ役割はあれど、特別に存在意義を問われることはなく、その全てが、天界に遍満する天の御中主の神に帰結している。かの天照大神も、乱暴な言い方をすれば、伊邪那岐の神がただ顔を洗った時に生まれた訳で、特別に創意があって生まれたという訳ではないし、他の神々も、その誕生の経緯は似たり寄ったりである。言うなれば、「何となく」生まれ、「何となく」存在しているのが日本の神々の特徴であり、その代表格が、「何となく」偏在している天の御中主の神であろうか。
最近、ディスカバリーチャンネルを視聴していたとき、ある宇宙ドキュメンタリー番組で、登場した宇宙物理学者達が口を揃えて唱えている言葉が印象に残った。曰く、「宇宙は漠然と生まれ、漠然と存在している」、と。
その言葉と相まって、思い出したのが、過去に聴いた著名な物理学者が発した言葉、「宇宙の発現には神を必要としない」である(この言葉を発したのが、誰あろうスティーブン・ホーキング博士)。
これらの言葉に含まれる科学者たちの思いは、概ね次のようなものであろうか。
「宇宙には誕生から存在に至るまで、神は存在しない」
中世の教会による弾圧・偏狭な神学者の存在に辟易させられてきた欧米の物理学者たちの、反抗心に似た思いも、これらの言葉の中から感じることが出来る。
もちろん、このような理論は、創造神を唯一絶対の神と崇める一神教の信徒たちには、到底受け入れられるものではないであろうが...
ところが、現代物理学者たちが唱える「漠然と存在する宇宙」は、「何となく」存在・偏在している神々を感じ取ってきた日本人には、特に抵抗もなく受け入れることができる。何せ、日本の神々は、言い方を変えれば皆「漠然と存在」するのだから、それこそ宇宙の始まる前から宇宙が出来て後の現在に至るまで、いくらでも神々が存在できる。
ここでも、「漠然と存在する宇宙」を、「何となく存在する神々」として認識してきた古代日本民族の直観力に驚嘆させられる。
ちなみに、日本の神道にも似た宇宙観は、古くはインドのヒンドゥー教や仏教にも観られ、かつてカール・セーガン博士がヒンドゥー教の宇宙観についてテレビ番組「コスモス」で解説していたのを憶えている。
進化論も含め、案外現代科学というものは東洋的な宗教観にマッチするようである。
しかし、日本の神道・神話に観られる宇宙観(宗教観)で特筆すべきは、これが国家・社会のシステムとして現代まで生き続けていることである。
それを最も顕著に現しているのが、言わずと知れた御皇室と天皇陛下の存在である。
御皇室もまた、神代の時代から現代に至るまで、日本人の生活の中に「何となく」存在し、そして「何となく」敬われている。そのことが、権力闘争と国家の存亡を繰り返してきた他の国々の権力者と決定的に異なるところであり、かえって尊く、かけがえのない存在となっている所以なのである、と、宗教学者島田裕巴先生が、御皇室と天皇陛下の存在意義ついて述べている※3。
この「何となく存在する」というのは、日本人の感覚でなければ解釈の難しいところだと思うが、そのような古代より続く日本人の宇宙観があったればこそ、神代に連なる系譜を今に引き継ぐ御皇室・天皇陛下を中心にいただく日本という国がこの世界に現されてきたのではないか、そんなふうに思えるのである。
現在、世界には192の国家があると言われている。しかし、現在に至るまで2000年以上の長きにわたり存続・繁栄してきた国家は、日本を除いて他にない。
その繁栄を支えてきたのが、古代日本人の悟ってきた宇宙観であると考えたならば、その宇宙観を記し伝えてきた神話とは如何にありがたく尊いものであるか、また、そこに素直に(直感を研ぎ澄まして)学ぶことが如何に大切なことであるか。日本の歴史を学び、また、将来の国の発展を願うほどに、そのことを強く思う次第である。
※1 谷口雅春著「限りなく日本を愛す」
※2 アットホーム(株)「こだわりアカデミー」,「宇宙創生を解明する”インフレーション理論”」http://www.athomeacademy.jp
※3 別冊宝島「天皇のすべて」
H25.4.8 成瀬
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